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大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)34号 判決

控訴人(原告) 青木太 外七名

被控訴人(被告) 在原脩 外一名

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、各自、奈良県北葛城郡上牧町(以下「上牧町」という。)に対し金三二六万円及びこれに対する昭和五三年四月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  被控訴人ら

1  本案前の申立て

控訴人らの本件訴えをいずれも却下する。

との判決を求める。

2  本案についての申立て

主文同旨の判決を求める。

第二主張関係

次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。 一 原判決事実摘示の補正

1  原判決四枚目表三行目に「支払」とあるを「支出」と改める。

2  同五枚目表三行目を「(二)地方自治法二三二条一項違反」と改める。

3  同六枚目表末行の「円」の次に「の内金三二六万円」を加える。

二 当審における新たな主張

1  控訴人ら

(一)  社交儀礼の範囲の逸脱

地方公共団体が一個の社会的実在として社交儀礼等の私法的活動をすることは否定し得ないにしても、その規模及び内容は必要最少限度のものでなければならない。

しかるに本件祝賀式典の費用は町費(予算執行額)だけでも三二六万二九三〇円の多額に上るばかりか、訴外村本建設株式会社(以下「村本建設」という。)からの現物寄付(三七三万六二〇〇円相当)を加えると総額六九九万九一三〇円となつて、これは当時の上牧町の歳出予算額約一九億四〇〇〇万円の〇・三六パーセントに相当する上、内容的にも一部町民が町費で飲食をするなど通常の社交儀礼行事として社会通念上許される支出の範囲を著しく逸脱している。

ちなみに昭和五七年九月六日岩手県下閉伊郡山田町で行われた鈴木善幸内閣総理大臣の郷土入り祝賀会における山田町の公金支出は三一万一一五〇円にすぎない。

(二)  本件祝賀式典の違憲性

本件祝賀式典は特定政党に所属する政治家である訴外服部の郵政大臣就任に関するもので政治宣伝活動たる側面を有することからすれば、住民は町民税の負担という間接的な形ではあつても祝賀を強制されたのと同様であり、思想及び良心の自由並びに集会、表現等の自由の保障に反すること(憲法一九条、二一条違反)、国務大臣であるからといつて一般国民と比べて格別の待遇を受けることはできないはずであるが、本件祝賀式典はその規模内容等からみて格別の待遇に当たり法の下の平等に反すること(同法一四条違反)、訴外服部の郷土入りに際し小中学生を沿道に整列させ手旗を振らせたことは、生徒に対する政治的強制であり教育の中立性にも反すること(教育基本法八条違反)、国政の担当者たる国務大臣への就任を地方公共団体が歓迎祝賀し、支持者である一部町民が町費で飲食するという(しかも議会における説明とは著しく異なる派手な内容の)本件祝賀式典は地方自治の本旨である団体自治及び住民自治に反すること(憲法九二条違反)などの点で祝賀式典自体憲法に違反するものであり、したがつてそのための公金の支出は違法たるを免れない。

(三)  会計処理上の違法

(1) 本件祝賀式典に係る費用の支払の中には、支出負担行為伺が作られないままに支払がなされたものがあり、右の支出は上牧町会計規則に違反する。すなわち、原判決添付別表(一)の23の六万円については領收書の日付は昭和五三年一月一二日であつて最も早いのに支出負担行為伺の作成順では九番目であり、同21の四六〇〇円については領收書の日付は同月一三日であるのに支出負担行為伺の作成順では一〇番目であり、同2の一三三〇円、同24の一五一〇円、同16の一万〇六〇〇円については領收書の日付はいずれも同月一四日であるのに支出負担行為伺の作成順ではそれぞれ二、八、二四番目であつて、領收書の日付と支出負担行為伺作成の順番が対応しないこと、更に同3、4、5、9、10、19の酒代が支出負担行為伺の作成順では一二から一七番目までにまとめられており、同14ないし18のみかん代が支出負担行為伺の作成順では二一から二五番目までにまとめられているところからみて、支出負担行為伺が支出の時期までに作られなかつたことは明らかである。

(2) 上牧町と近鉄百貨店との間に支出負担行為が行われたことは、同百貨店からの見積りや納品が上牧町宛になされているところから明らかである。このような場合には支出負担行為書を作成して町長の決裁を受け予算からの差引をすべきであるのに予算がオーバーするためこれをせず、本件祝賀式典の後である昭和五三年二月九日に至り村本建設に依頼して現物出資の名目で債務引受をさせているが、かかる会計処理は上牧町会計規則に違反する。

(3) 仮に村本建設からの寄付が本件祝賀式典に先立つて行われたとしても、現物寄付の形式をとることまで決つていたわけではないから、右の寄付は寄付金として予算の歳入に組み入れ決算に計上すべきものであつて、これを現物寄付の形式にしたのは、本件祝賀式典の費用を表面上予算の範囲内に納めんがための便法であつて、かかる措置は予算制度を原則とし予算外の支出を許さないものとする地方財政法の趣旨に違反する。

(4) 仮に村本建設からの寄付が現物寄付であつたとしても、上牧町は寄付された物を用いて本件式典の規模内容を企画実施する義務を負うことになるから、地方自治法九六条一項の負担付き寄付に該当し町議会の議決を要するところ、右の議決はなされていないから現物寄付は違法である。

(四)  被控訴人の主張に対する反論

本件訴えが不適法である旨の被控訴人の主張は以下の理由により失当である。

(1) 地方自治法二四三条の二は、雇用主体である地方公共団体と被傭者たる会計職員間の内部的責任関係を定めたものであり、これに対し同法二四二条の二は主権者たる住民が地方公共団体の行政の内部的処理に問題ありとして訴えを提起する場合であるから、制度の趣旨を異にし、本来別立て制であるべきであり、もし同法二四三条の二の適用がある場合には同法二四二条の二の住民訴訟は提起できないとすれば、住民訴訟そのものの存在意義は失われるとさえいい得る。

(2) 地方自治法二四三条の二第一項後段の「職員」の中には地方公共団体の長を含まないと解すべきである。けだし、同法の一般的慣用では執行機関と職員とを区別しており、右の「職員」は長から権限の委任を受けて支出負担行為や支出命令を行う者をいうと解すべきであるし、もし右の「職員」に長が含まれるとすれば、長は自らの違法に関し自らに対して賠償命令を発することとなつて到底有効に機能するとは思えないからである。

(3) 被控訴人は、地方自治法二四三条の二の規定と賠償責任に関する民法の規定とが重畳的に適用されるとすれば賠償責任の存否、範囲に差異を生じ不合理であると主張するが、地方自治法二四三条の二の規定を民法の特別法と解し、主観的要件を故意重過失に限ることにより解決することが可能である。

また被控訴人は両手続を並行して進行させるときは収拾できない混乱を生ずる旨主張するが、両手続が並行して進行することは現実にはほとんどあり得ない上、両手続とも監査委員のところに係属するからそこでの調整が可能であり、監査委員の賠償責任なしとする監査結果に不服があるときは住民訴訟のみが進行し、賠償額に不服があつて住民訴訟が提起されたときは職員は既払賠償額を抗弁として提出すれば足りるから何ら混乱は生じない。

2  被控訴人ら

(一)  却下を求める理由

地方自治法二四三条の二は地方公共団体の職員のうち出納職員及び予算執行職員等一定の職員のした一定の行為による地方公共団体に対する賠償責任に関して特則を規定しているところ、同条の趣旨からすれば、同条の二第一項の規定が適用されるべき場合においては、賠償責任に関する民法の規定は適用を排除され(同条九項)、賠償責任の存否及び範囲は地方公共団体の長の賠償命令(行政処分)によつて初めて確定されて具体的な義務となるに至り、その実現も専ら自己完結的な同条所定の手続によつてのみ図られるべきものであつて、民事訴訟によることは許されないものと解すべきである。もし同条の規定と賠償責任に関する民法の規定とが重畳的に適用されるとすれば彼此いずれによるかによつて賠償責任の存否、範囲に差異を生じて不合理であるし、両手続が並行して進行するものとすれば、調整規定を欠く現行法の下では収拾すべからざる混乱を生ずることは明らかである。そして同条の規定は、同条一項二号において地方自治法二三二条の四第一項の命令を掲げているところからも、地方公共団体の長の賠償責任についても等しく適用されるべきであつて、このことは、地方公共団体の長がその資格に基づいてその職にある私人たる自己にあてて賠償命令を発することが法理上可能であることや賠償命令は監査委員の監査に基づいてなされるなど公正な運用が制度上担保されていることからもいい得るところである。

したがつて、本件祝賀式典に関して被控訴人らがなした支出負担行為、支出命令もしくは支出の違法を理由とする賠償責任については、地方自治法二四三条の二所定の手続によつて処理されるべきであり、同法二四二条の二第一項四号に基づく控訴人らの本件訴えは不適法として却下されるべきである。

(二)  控訴人らの当審における主張に対する認否

いずれも争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一本案前の申立てに対する判断

地方公共団体の職員の賠償責任に関する制度の制定、改正の経緯に現行地方自治法二四三条の二の規定内容を合わせ考えれば、同条の趣旨とするところは、同条一項所定の職員の職務の特殊性に鑑み、同項所定の行為に起因する当該地方公共団体の損害に対する右職員の賠償責任に関しては、民法上の債務不履行又は不法行為による損害賠償責任よりも責任発生の要件及び責任の範囲を限定して、これらの職員がその職務を行うに当たり畏縮し消極的になることなく、積極的に職務を遂行することができるよう配慮するとともに、右職員の行為により地方公共団体が損害を被つた場合には、簡便かつ迅速にその損害の補填が図られるように当該地方公共団体を統轄する長に対し、賠償命令の権限を付与したものであると解せられる。

してみれば、当該職員に対する損害賠償請求権は地方自治法二四三条の二第一項所定の要件を充たす事実があればこれによつて実体法上直ちに発生するものと解するのが相当であり、同条三項に規定する長の賠償命令をまつて初めて発生するものと解すべきではない。そして普通地方公共団体の長の職責並びに同条の規定の趣旨及び内容に照らせば、同条一項所定の職員には当該地方公共団体の長は含まれず、普通地方公共団体の長の当該地方公共団体に対する賠償責任については民法の規定によるものと解するのが相当である(最高裁昭和六一年二月二七日第一小法廷判決参照)。

以上のとおりであるから、地方自治法二四三条の二第一項所定の職員の賠償責任は同条三項の長の賠償命令によつて初めて発生しその実現も同条所定の手続によつて図られるべきであるとし、かつ、右職員の中には普通地方公共団体の長も含まれることを前提として本訴の不適法却下を求める被控訴人らの主張は理由がない。

第二本案についての判断

一  請求原因1ないし4(控訴人ら及び被控訴人らの地位、本件公金支出の存在及び監査請求の経由)の事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  本件公金支出の手続的違法の有無について

次のとおり付加、訂正、削除するほかは原判決理由説示(原判決一七枚目表六行目冒頭から一九枚目表一行目末尾まで)と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決一七枚目裏三行目に「及す」とあるを「及ぼす」と改める。

2  同一八枚目裏八行目の末尾に「。」を加え、同九行目の冒頭から末行の「ことができ、」までを削る。

三  地方自治法二三二条一項違反の有無について

次のとおり付加、訂正、削除するほかは原判決理由説示(原判決一九枚目表三行目冒頭から二三枚目裏六行目の「見当らない。」まで)と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決二〇枚目表一行目の「四」を削る。

2  同三行目に「二三ないし二七号証」とあるを「二三号証、第二七号証」と改め、「ないし七号証、」の次に「原審証人川邊英雄の証言により成立の認められる乙第二号証、第四号証」を加える。

3  同六行目の「第九号証」から同七行目の「二、」までを削り、「原審及び当審における」を加える。

4  同七行目に「被告」とあるを「原審及び当審における被控訴人」と、「原告青木」とあるを「原審及び当審における控訴人青木太」と各改める。

5  同二二枚目裏四行目の「原告青木を含む」を削る。

6  同二三枚目表三行目冒頭から七行目末尾までを次のとおり改める。

「〇・一六パーセントであり、町長交際費三〇〇万円とほぼ同規模であるが、別途村本建設から歓迎用タワー、同アーチ、提燈、エンピツ等三七三万六二〇〇円相当の現物寄付を受けた事実がある。」

7  同一〇行目の「五」を削る。

8  同裏三行目の「のみならず、」の次に「後記四において判断するとおり」を加える。

四  社交儀礼の範囲の逸脱の有無について

控訴人らは本件祝賀式典が社交儀礼の範囲を逸脱している旨主張するので判断するに、前掲甲第二、三号証、第四号証の一ないし四、第五ないし八号証、成立に争いのない甲第二八号証、第三三号証の二四の一、二、第三三号証の二七の一、第三四号証の三、第三六号証、第三七号証の一、二、第三八号証、第四三号証、第五五号証の一、二、当審における控訴人青木太本人尋問の結果により成立の認められる甲第三〇号証、原審及び当審における証人川邊英雄の証言、当審における控訴人青木太本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)、並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  本件祝賀式典費用(現物寄付分を含む。)の内訳は次のとおりであること

(一) 現物寄付によるもの 計 三七三万六二〇〇円

(1) 歓迎用タワー七基及び同アーチ一基         二二五万九〇〇〇円

(2) 提燈三〇〇〇個                   六九万円

(3) エンピツ三本入り四〇〇〇ケース(小、中学生に配付) 二六万円

(4) 手旗四〇〇〇本                    八万七五〇〇円

(5) 祝賀会会場装飾費その他               四三万九七〇〇円

(二) 町費によるもの 計 三二六万二九三〇円

(1) パーテイ費用                   二六三万九七〇〇円

(内訳)

オードブル、サンドウイツチ、すし等           二〇五万円

飲物(ビール、酒、ジユース)               一二万六二〇〇円

ホステス二〇人への手当                  一五万円

その他                          三一万三五〇〇円

(2) 打上花火九〇発                    二四万円

(3) 芸人謝礼(提燈行列先導)               二三万〇二〇〇円

(4) その他                        一五万三〇三〇円

合計 六九九万九一三〇円

2  現物寄付分を含む総費用が予算額四〇〇万円を三〇〇万円近く超えることになつたのは、当初パーテイ費用を一五〇万円ないし一七〇万円(参加人員を六〇〇名ないし七〇〇名程度とする積算であると考えられる。)と見込んでいたところ参加人員が約一〇〇〇名に増加し約一〇〇万円増の二五九万円となつたことと、当初二〇万円ないし三〇万円程度と考えていた歓迎用タワー等の設置費が舗装道路上に設置する必要上二〇〇万円を超す予想外の高額となつたことによるものであるが、祝賀式典の内容そのものは町議会における予算審議の際の理事者側の説明と変りがないこと

3  本件祝賀式典実施後の昭和五三年二月一〇日の参議院決算委員会の質疑において、沓脱タケ子議員が訴外服部に対し本件祝賀式典についての感想を質したところ、訴外服部自身戸惑いを感じた旨の答弁をしていること

4  昭和五七年九月六日岩手県下閉伊郡山田町で行われた鈴木善幸内閣総理大臣歓迎祝賀行事は、「鈴木善幸総理の郷土入りを祝う会」と山田町との共催で行われ、町予算として五〇万円(報償費)が計上されたが、支出は三一万一一五〇円でありそのほとんどが記念品代であること(もつとも、祝賀会計画当初は町負担一〇〇万円、各種団体負担一九〇万円、その他一〇万円合計三〇〇万円の費用の支出が予定されていたのであり、結果的に支出された総額、町以外の負担額については明らかではない。)

以上のとおり認められ、右認定に反する当審における控訴人青木太本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

右に認定したところによれば、本件祝賀式典の費用は町負担分だけでも三〇〇万円を超えており、金額的にも町予算総額に占める割合の上でも決して少額とはいえず、内容の点においても配慮に欠ける点がないではない(本件祝賀式典が政治的性格を有しないことは後記五に認定するとおりであるが、議院内閣制の下における大臣就任に係るものであつて政治的な色彩を疑われても致し方のない面もあるから、かかる点にも十分配慮した上で行事開催の方式なり規模内容なりを決定するのが望ましいといえよう。)が、金額が多くなつたのは主として町の単独主催とし町民挙げての祝賀会として盛り上げ、前年の一二月に行われた各種団体代表の多数意見にこたえようとした素朴な対応によるものと解されるのであり、現物寄付を含む総費用が予算額を上回ることになつたのは参加人員の予想外の増加と歓迎用タワー設置費の見込違いによるもので内容的には予算審議の説明と異ならずことさらに式典を派手に行つたものではないこと、現物寄付があつたとはいえ決算では七〇万円余の不要額を生じていること、人口一万四〇〇〇に満たず、とりたてて郷土自慢とてない山間地域の後進性を考えると、いささか時代錯誤ともいえる伝統的な義理人情に流れすぎた嫌いはあるとはいえ、他方本件祝賀式典には上牧町の町民に自信と自覚を与えひいては住民自治への関心を高めるという副次的効果があることも否定できないこと、町議会も本件祝賀式典の費用を四〇〇万円とする予算案を圧倒的多数で可決していること、山田町の場合町の負担は三一万余円と少額で済んでいるが、これは民間団体との共催によることの結果であつて要した費用総額は不明であるし、前記のように本件祝賀式典が国会で取り上げられた経緯もあつて自粛したことによるとも推測され単純に比較できないことなどからすれば、本件祝賀式典をもつて社交儀礼の範囲を逸脱しているとまでは断定することはできず、控訴人らの主張は失当である。

五  本件祝賀式典の憲法違反の有無について

控訴人らは本件祝賀式典が憲法に違反する旨主張するので判断する。

まず本件祝賀式典が特定政党に所属する政治家の政治宣伝活動たる側面を有するとする点であるが、前記三において認定したように本件祝賀式典は訴外服部の永年にわたる上牧町への貢献を讃えるとともにその大臣就任を町を挙げて祝いたいという素朴な住民感情に基づいて行われたものと認められるのであつて、特定の政党や訴外服部という特定の政治家を利するための政治宣伝活動として行われたものとは認められない。

また、式典に参加するかしないかは町民の自由であつたことが認められるので、住民が住民税を負担しているからといつて、そのことをもつて本件祝賀式典に参加を強制された場合と同視することはできず、控訴人らの憲法一九条、二一条違反の主張は失当である。

次に控訴人らは本件祝賀式典は国務大臣に対し格別の待遇をするものであつて憲法一四条に違反する旨主張するが、特定の個人の功績を讃えこれを顕彰することは憲法自らの容認するところと解される(憲法七条七号、一四条三項参照)上、本件祝賀式典は前述したように訴外服部の上牧町に対する貢献を讃えるとともに大臣就任を祝う趣旨のものであつて、いかなる特権を伴うものでもないから、控訴人らの主張は失当である。

更に控訴人らは訴外服部の郷土入りに際し小中学生を沿道に整列させるなどしたことは政治的強制であり教育の中立性に反する旨主張するところ、成立に争いのない甲第一九号証の一、二、原審における被控訴人在原本人尋問の結果により成立の認められる乙第八号証によれば、昭和五三年一月一四日の訴外服部の町役場訪問に際し園児、学童ら多数が沿道に手旗をもつて出迎えた事実が認められるが、本件祝賀式典が政治的性格を有しないことは先に説示したとおりであり、教育の中立性に反するということはできないから、控訴人らの主張は失当である。

最後に控訴人らは国政の担当者である国務大臣への就任を地方公共団体が歓迎祝賀することは地方自治の本旨に反する旨主張するが、本件祝賀式典はさきに認定した趣旨で行われたものであり、右の式典を行うことが地方公共団体が国家から法人格的に独立し自律権を有するという団体自治の理念に反するとは到底考えられない上、既に認定したように上牧町議会は本件祝賀式典の費用を四〇〇万円とする予算案を審議し圧倒的多数をもつて可決しており、本件祝賀式典はいわば上牧町町民自らの意思に基づいて行われたものということができるから、団体自治、住民自治のいずれの側面からみても地方自治の本旨に反するものではなく、控訴人らの主張は失当である。

六  会計処理上の違法の有無について

控訴人らは、本件祝賀式典に係る費用の支出の中には上牧町会計規則に違反するものがあるほか、村本建設の現物寄付に係る会計処理は地方自治法、地方財政法及び上牧町会計規則に違反する旨主張するので判断する。

1  まず本件祝賀式典費用の支払の中には支出負担行為伺が作られないまま支払がなされたものがあるとの主張であるが、成立に争いのない甲第三三号証の一八の一、二、同二三の一、二、同二五の一、二、同二六の一、第三四号証の二、第三五号証の四、第四〇号証、当審における証人川邊英雄の証言により成立の認められる乙第一二号証、並びに当審における証人川邊英雄の証言によれば次の事実が認められる。

(一) 原判決添付別表(一)の2の一三三〇円(賄代)の領收書の日付は昭和五三年一月一四日で支出負担行為伺の作成順は二番目であるが、同23の六万円(あられ代)、同21の四六〇〇円(生花代)、同24の一五一〇円(ローソク代)、同16の一万〇六〇〇円(みかん代)については領收書の日付がそれぞれ同月一二日、一三日、一四日、一四日と時期的に早いにもかかわらず、支出負担行為伺が作成された順ではそれぞれ九、一〇、八、二四番目であつて、しかもその作成時期は同年二月二二日以降であること

(二) 右24の一五一〇円(ローソク代)及び16の一万〇六〇〇円(みかん代)は、提燈行列に参加した町役員が当日自らの判断で購入して(領收書はその時に受取つたもの)参加者に配付したものを後日本件祝賀式典に必要な費用と認めて町の負担としたものであること

(三) 同3、4、5、9、10、19の酒代については支出負担行為伺作成の順番では一二ないし一七番目にまとまつており、同14ないし18のみかん代も支出負担行為伺作成順では二一ないし二五番目にまとまつていること

(四) 上牧町会計規則二四条一項には「課長はその所管する歳出予算………について、支出負担行為をしようとするときは、その内容、予定金額、支払の時期及び方法を明らかにした支出負担行為書………により町長の決裁を受けなければならない。」と規定されているが、上牧町では町長不在の場合などには支払を先に済ませ後で町長の決裁(五万円未満は助役の決裁)を受けるという便宜的処理のなされることもあつたこと

(五) 上牧町における会計処理では支出負担行為伺は相当数まとめて一定の時期に作成し決裁を受ける慣行であり、業者が集金に来るのが遅れることもあるので、支出負担行為伺作成の順序と領收書の日付順とは必ずしも対応しないこと、また上牧町の会計事務処理では、支出命令書の下欄に設けられた業者から上牧町宛の請求欄、及び請求者から上牧町収入役宛の領收欄に日付を記入するに当たり、そのほとんどは実際の請求日、領收日を記入するのでなく、当該支出を歳出簿に書き入れた日を転記していたものであること

(六) 前記23の六万円(あられ代)及び21の四六〇〇円(生花代)に係る支出命令書については町長及び助役の決裁がなされていること

以上のとおり認められ、右認定に反する当審における控訴人青木太本人尋問の結果は前掲各証拠と対比して措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右によれば、前記24の一五一〇円(ローソク代)及び16の一万〇六〇〇円(みかん代)については、領收証の日付が支出負担行為伺作成の日より早いからといつて支出負担行為につき決裁を経ることなく支出がなされたということはできない。

23の六万円(あられ代)及び21の四六〇〇円(生花代)については、領收証の日付が支出負担行為伺作成の日より早くなつた理由が明らかでなく、前記(四)の便宜的処理をしたものと推認されるところ、右の処理は地方自治法二三二条の四及び上牧町会計規則二四条一項に照らして違法であるといわざるを得ないが、後日に至り支出負担行為伺が作成され、支出命令書の決裁も経ている事実が認められるのでその瑕疵は治癒したものというべきである。

前記2の一三三〇円(賄代)については支出負担行為伺作成前に支出がなされたことを認めるに足る証拠はなく、酒代及びみかん代に係る支出負担行為伺がまとめて作成されているからといつてそれだけで支出負担行為伺作成前に支出がなされたとすることはできない。

以上のとおりであつて、控訴人らの主張は理由がない。

2  次に村本建設が現物寄付をするに至つた経緯等につき検討するに、前掲甲第四号証の一ないし四、第五ないし八号証、原審及び当審における証人川邊英雄の証言(後記措信しない部分を除く。)、当審における被控訴人在原本人尋問の結果並びに前記四の事実を総合すれば、

(一) 本件祝賀式典費用につき当初町当局は歓迎用タワー設置費を二〇万円ないし三〇万円、パーテイ費を一五〇万円ないし一七〇万円と積算していたが、昭和五二年一二月二八日付けの近鉄百貨店の見積りによると歓迎用タワー設置費だけで二一〇万円を要することが明らかになり、パーテイ参加者も増加することが予想されたため、祝賀式典費用は予算額を相当程度超過することが明らかとなつた。

(二) しかしちようど年末年始にかかるため臨時議会を開いて補正予算を組むことも困難であり、そのため町当局では町長の専決処分により予算を増額して対処することも一時考えられたが、昭和五三年一月初め頃、村本建設の代表者から町長に対し先に行われた町制施行五周年記念式典に際し寄付をするつもりでいたところ失念してしまつた旨の話があつたことから、両者の間に町が近鉄百貨店から納品させるべく見積りをさせていた前記歓迎用タワーほか提燈、エンピツ、手旗等三七三万六二〇〇円相当の物品を村本建設において購入しこれを上牧町に寄付する旨の合意が成立したこと(ただし寄付の関係書類は行事終了後昭和五三年二月九日付で作成された。)

(三) 近鉄百貨店からの納品は直接上牧町になされ、代金の支払は村本建設から近鉄百貨店に対してなされたこと

以上のとおり認められ、右認定に反する原審及び当審における証人川邊英雄の証言の一部、当審における控訴人青木太本人尋問の結果は信用できない。

控訴人らは上牧町と近鉄百貨店との間に支出負担行為が行われた旨主張するが、近鉄百貨店から上牧町宛の書面はいずれも見積書(甲第四号証の二ないし四、第八号証)であつて契約の成立を立証するに足りないし(見積書中に本件祝賀式典終了後の昭和五三年一月二九日付のものがあるが、このことから契約の成立を推認することはできない。)近鉄百貨店からの納品が上牧町に対して行われたことや寄付関係の書類(甲第四号証の一、第五ないし七号証)が昭和五三年二月九日付で作成されたことから契約の成立を推認することもできないというべきである。他に契約の成立を認めるに足る証拠はない。

以上のとおりであるから、上牧町と近鉄百貨店間の支出負担行為の存在を前提とする控訴人らの主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

3  控訴人らは村本建設からの寄付を現物寄付の形式にしたのは地方財政法の趣旨に違反する旨主張するので判断するに、前記2の(二)に認定したとおり、上牧町が村本建設からの寄付を現物寄付として受け入れることとしたのは、町議会を開いて補正予算を組む時間的余裕がなかつたことによるものと認められ、ことさらに町議会の審議を回避するなど脱法的意図の下に行つたものとは認められないから、控訴人らの主張は失当である。

4  最後に控訴人らは村本建設からの現物寄付は負担付き寄付であるから議会の議決を要する旨主張するので判断するに、本件現物寄付の経緯は前記2の(二)に認定したとおりであつて、寄付に係る物品が本件祝賀式典のために使用されることについて双方に共通の認識があつたことは推認するに難くないが、上牧町がこのことについて債務を負つたことを認めるに足る証拠はないから、控訴人らの主張は失当である。

七  よつて控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上明雄 堀口武彦 小澤義彦)

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